後ろ姿を見ている私の後ろに立ってみた。
「みんなを探している私」と、「「みんなを探している私」を見ている中学校の頃の私」。
その「「みんなを探している私」を見ている中学校の頃の私」の後ろに、今の私は立って、中学校の頃の私を、後ろからみつめる。
声も出さずに叫んでる中学校の頃の私は、右手の親指の背を強く噛んでる。
その頃の私は、今とおんなじ背丈くらい。
今の私は、中学校の頃の私の肩に手を置く。
固く力の入った肩。
右手で頭を撫でてみる。
つるつるした髪の毛。
固く力の入った肩とは逆に、ぐんにゃりした惨めさを感じている中学校の頃の私。
肩も背中も暖かくなりますように。
ゆっくりゆっくり、肩と背中に手を充てる。
頭もゆっくり撫でてみる。
後ろから、そっと。
ちょっとずつ温まったのか、ちょっと力が抜けたようにみえた。
身体の距離をゆっくり近づけて、肩の緩みにそっと沿わすように、後ろからくっつく。
彼女の前に手を回して、後ろから抱きしめる。
彼女は、強く噛んでた右手の親指をぎゅーっと右手で握りしめてる。
浅かった彼女の呼吸は、私のゆっくりした呼吸と合っていく。
深く。
「みんなを探している私」から目を離さなかった彼女の目線は、後ろから抱きしめた私の手を見る。
私は、彼女の右手をとって、そっと握る。
ゆっくり振り返って、私の顔を見る彼女。
こちらを向いた彼女を正面から抱きしめる。
彼女の頭と背を撫ぜながら、伝えてみる。
誰にも相談できなかったんだよね。
きっとわかってもらえないっておもったんだよね。
分かってもらえなかったら、どうしようどうしようっておもったんだよね。
わかってもらえないくらいなら、黙ってたほうがいいと思ったんだよね。
お父さんもお母さんも忙しそうだったもんね。
お父さんとお母さんにわからないことを言って、わからないなら、困るだろうなぁっておもったんだよね。
困らせたら、悪いなぁっておもったんだよね。
うまくやれなかった私がよくないっておもったんだよね。
嫌な人が、目の前に居続けたら、嫌だったろうなぁ、困ったろうなぁって、友達にも、思ってたんだよね。
悪かったなぁ、私が悪かったなぁって。
それなら、いないほうがいいだろうなぁって、いっぱい自分へ責めたんだよね。
それは辛かったよ。
辛いことだったよ。
みんながね、困らないように、我慢し続けたのは、あなたの優しさだったんだよ。
どんなであれ、その優しさに噓はなかったよ。
ほんとだったよ。それはそれは貴重なものだったんだよ。
うまくできなかったって、自分を責めたのも、その優しさがあったからでしょ?
私はね、あなたがいいよ。
あなたがいい。
誰かを責めたら傷つくって知ってるあなたがいい。
なにかしちゃって、気に病んでるあなたがいい。
気にして自分を責めて、頑張り続けるあなたがいい。
あなたがいちばん大事なの。私は。
頑張り続けたよ、あなたは。
あなたが居てくれたから、だから今、私が居るよ。
だからね、どうもありがとう。って、私はあなたに思ってるよ。
もう頑張らなくて、責めなくても、だいじょぶ。
もういいんだよ。
今まで、一所懸命に生きててくれて、どうもありがとう。
彼女の頭と背中ををゆっくり撫でながら、言い続けてみる。
ね。
今、今の私が、うまく言えないなぁ、でも一所懸命伝えたいなぁって私の気持ちは、あなたが誰よりもわかってくれるでしょう?
私に頭を撫ぜさせながら、コトンと、私の肩に頭をのっけてる彼女の身体の重みを感じる私。
じきに、私は、その彼女と、「みんなを探している私」を迎えに行こう。
そうしよう。